2007年春全国ロードショー「アルゼンチンババア」
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よしもとばななが2002年に発表した「アルゼンチンババア」は、人の生と死をテーマにしながら、じんわりと体中に染み渡っていくような幸福の姿を心優しい文体で描き出した傑作小説。世界30数カ国で翻訳され、村上春樹とならぶ日本を代表する作家であるよしもとばななの小説を原作にした映画化は、『キッチン』(89年、森田芳光監督)『つぐみ』(90年、市川準監督)に次ぎ今回で3度目。この小説に早くから着目し企画を温めてきた長尾直樹監督(『鉄塔武蔵野線』、『さゞなみ』)が、よしもと原作映画としては最大規模の予算で念願の映画化を実現した。人気アーチスト、奈良美智とコラボレーションして表紙や中面の挿画になったドローイングは映画のオープニングやエンド・クレジットにも使われ、大人の童話のような和やかな空気感を原作と分け合っている。

警官もうなぎやも酒屋もみな幼なじみのような小さな田舎町。その町の外れに住むおかしなババアと悟が関わり合いになるとは誰一人思いも寄らなかった。気のいい町の人々を巻き込んで、父親をまともな世界(?)に取り返そうと奮闘するみつこが目にした屋敷の内部の光景は、温かな陽だまりのように気持ちよく、不思議にしあわせな空気が満ちていた。悟は屋上で毎日こつこつと奇妙なものを制作しながら、少しずつ妻の死の痛手から回復しているようだった・・・。哀しみを乗り越えてよみがえる父と娘の美しい絆に、しあわせの涙が頬をつたう愛と命の物語。

役所広司、鈴木京香、堀北真希。物語の期待感いっぱいの豪華キャスト


みつこを一人置いて家を出てしまうダメな父親だが、純粋で、仕事にも亡き妻にも一途だった職人気質の悟役をこれほど魅力的に演じられる俳優は役所広司をおいて他にいない。誰もがその爽やかな存在感に心を奪われる健気なみつこ役には、堀北真希。そして大きな愛の力で人々の心を包み込む不思議な存在、アルゼンチンババアの難しい役柄をリアルとファンタジーの狭間で、鈴木京香が見事に演じきった。
みつこを支える叔母の早苗役に、森下愛子。いとこの信一役に、新人、小林裕吉。イルカが好きだった亡き母親、良子役に、手塚里美。また、父娘の行方を見守る善良な町の人々、岸部一徳、田中直樹(ココリコ)、きたろう他が物語にコミカルな味を加えている。
気持ちのよい草原に流れるアルゼンチン・タンゴの楽曲は、世界的バンドネオン奏者、小松亮太。古いアルゼンチン民謡をアレンジした主題歌で透明感のある歌声を聴かせてくれるのはタテタカコ(『誰も知らない』)。そして劇伴の周防義和が、父と娘のドラマの感情をじんわりと盛り上げている。
名作感あふれる洋画とも思えるような構図で撮影を監督しているのは松島孝助(『さゞなみ』『茶の味』)。撮影の拠点になった、アルゼンチンババアの住む通称“アルゼンチンビル”は、栃木県那須の町営牧場に敷地を借りて建設されたオープンセット。屋上に突き出た緑の丸屋根が異国情緒を醸し出し、ビルの屋内も“何も物を処分しない”アルゼンチンババアの小物がびっしりと集められ、物語のもう一人の主役として豪華に機能している。


役所広司 鈴木京香 堀北真希 原作:よしもとばなな (C)2006「アルゼンチンババア」製作委員会